法話3:どうすれば、脳(心)の平穏を得られるのか?

現世のニュースを見ていると、三毒(貪瞋痴)に侵され、修羅界(常に争いが絶えない場所)に陥っている人が増えてきたように思います。人間が侵されやすいので、特に注意しなさいとお釈迦様が教えてくれた三毒。

・貪(とん):いくらでも、際限なく欲しいという欲求
・瞋(じん):怒り・憎しみ・憎悪
・痴(ち):愚かな行為い、愚痴、無知(正見を知らない/世界の構造がわかっていない)

貪(とん)に侵されている人はよくみかけます。代表例は日産のゴーンさんかな。
瞋(じん)に侵されている人も最近よくみかけます。代表例は、あおり運転や児童虐待で逮捕された人かな。
痴(ち)に侵されている人もよくみかけます。例えば、貪(とん)が抑制できず愚かな行為に走り、不倫で家族を失った芸能人や、駅のホームで大声をあげて駅員に絡んでいる人かな。

この三毒に侵されると、本人は侵されたことに気づかず、また、関係した人にも、この毒が移っていくのです。三毒は蔓延しやすい。コロナウィルスに感染した人を誹謗中傷するのも、瞋(じん)に相当します。自分の身近でコロナが発生し、自分にも移るのではないかという恐怖心が瞋(じん)を引き寄せます。恐怖心を抱いた瞬間に、脳(心)が平穏からはずれ動揺しているのです。

脳(心)の動揺は、愚かな行為にも繋がっていきます。オレオレ詐欺などは、こういった脳(心)の動揺という心理をついた詐欺でもあります。もし、脳(心)が平穏であれば、このような詐欺や貪瞋痴から免れることができます。

いろんんことを知らない、世の中の構造を知らない、この世界がどうなっているのか知らないのも無知という毒です。したがって、いろいろ経験したり勉強したりして、脳(心)の平穏を保つには、多くの経験や幅広い知識を持っておくほうが、よりよいことです。
正しく見るという「正見」とは、事実や状況をよく観察して、的確に把握する、理解するという意味です。

脳(心)の平穏を保つには、まず三毒を意識し、これには注意することです。

次に、できる範囲で五戒を遵守することです。
・むやみに生き物を殺さない
・人の物を盗まない
・嘘をつかない
・不倫をしない
・お酒を飲んで、愚痴ったり、暴れたり、泥酔したりしない

これらは、すべて脳(心)を乱し、平穏な脳(心)を壊す要因となります。

そして、究極は八正道を実践することです。
八正道の要素のうち、脳(心)を平穏に保つための重要なキーワードの一番目は「正語」です。もし世界に自分一人なら「語(言葉)」は不要です。「語(言葉)」は必ず相手にかけるものです。このとき、お釈迦様は、「正語」を実践するようにと説かれました。「正語」とは、直訳では「丁寧な言葉使いをしなさい」ということですが、お釈迦様の根底にあるのは「慈愛と利他」の精神。またお釈迦様は、「観察と洞察」を重要視しています。このことから「正語」を訳すと、「相手の状態をよく観察して、相手にとって一番よい言葉を選び丁寧な口調で声をかけてあげること」ということになります。同じ人でも、その時の状況によって脳(心)の状態が日々変わっています。よく観察してから言葉をかけましょう。暴言や誹謗中傷は発した人も受けた人も、脳(心)が双方で痛み、平穏が失われる大きな要因となるので厳に慎みましょう。現代の情報化社会・ネット社会では、この「正語」の実践がたいへん重要な意味を持ってくると思います。

次に重要なキーワードは「正定」。これは安定の定。何が安定するのかと言えば「脳(心)」です。「正定」は修行によって得られます。厳しい修行を行うことで、ちょっとしたストレスはストレスと感じなくなります。心の鍛錬でもあります。お坊さんのやっている修行だけが鍛錬ではありません。スポーツ選手の日々のトレーニングも、受験勉強も、会社での仕事も、すべて耐える修行です。そして脳(心)の平穏を得るためのテクニックがあります。それは「呼吸」と「姿勢」です。座禅も「正定」を得るための実践の一つです。

次は「正念」。これは英語表記ではmindfulness(マインドフルネス)です。マインドフルネスには奥深い内容がありますが、簡単に表現すると、「今目の前で起こっている事象をよく観察し、それに集中すること」であり、そして必ず呼吸を入れながら意識を集中して観察することです。究極の形は自己の脳(心)の客観視ができるようになることです。自分の脳(心)の状態を、別の自分が見ている客観視の状況を作れるかどうか。その訓練を行うのがマインドフルネスの実践です。

どんな事象が起こっても、呼吸を入れながら自己の脳(心)を客観視できるようになると、冷静に観察できるようになり、三毒には侵されず、パニックにもならず、常に冷静な脳(心)を保つことができるようになります。これが「正見」と「正思(正しい考え方)」へと導いてくれます。結果として、どんな困難な状況であろうとも、正しい判断ができるようになります。三毒に侵されている人をみかけたとき、「この人は三毒に侵されているな!」と冷静に観察できるようになり、このような客観視ができるようになると、暴言を吐かれても、自分の脳(心)を痛めることが無くなります。

正しい判断ができていれば、脳(心)は常に平穏でいられるのです。般若心経に書かれている内容が理解できれば、真に動揺する場面などは、人生の中にそうそう多くは発生しないことがわかります。不安に思うようなことは、実はたいした不安ではなかったということがわかります。

最後に、脳(心)の平穏を保つための根底にあるのは、「慈愛と利他」の精神です。これを実践している人は、敵を作らず、人から愛されます。困っていればなにかしらの助けが入ります。

人間のストレスや不安は、経済の問題、対人問題、四苦(生老病死)と八苦(愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦)から発生します。ストレスや不安は三毒を引き寄せる要因であることを理解しましょう。ストレスや不安を感じたら、「今、自分は不安を感じているな!」と客観視し、深い呼吸を入れましょう。

「慈愛と利他」を実践し、五戒を遵守し、そして八正道を実践し「正見」が備われば、なるほど!平穏な脳(心)を得られるんだな!ということが理解できましたか?